前回書かせて頂いた記事では、歯医者があまり公(おおやけ)にしないものの、あなたの歯を残す上でとても大切な内容をお話させて頂きました。
内容を少しだけ復習すると、
- 多くの人が陥(おちい)る、「歯を失う、負のスパイラル」
- 「歯科治療=お口のサイボーグ化」という事実
- 本当は「歯医者は歯を治せない」
などといったものでした。一般的な歯科治療に対するイメージからすると、かなり衝撃的な内容だったかも知れません。
第二弾となる今回は、前回の「総論」を踏まえた上で歯医者の私が実践する「歯を守るための具体的なノウハウ」をお伝えしていきます。
「この記事を読めば歯医者で教えてもらうことはない!」というくらい、かなり詳しくお話していきますので、前回の記事よりもかなりボリュームのあるコンテンツになるかと思います。
ただし、一度ですべてのノウハウを普段の生活に取り入れる必要はありません。一通り読んだ上であなたの生活に足りなかったものから、無理のない範囲で実践してみて下さい。
「歯医者の治療から解放された人生」
「一生自分の歯で、自分らしく生きる人生」
はもう目の前です!今回も一緒に学んでいきましょう。
目次
歯を守るための、本当に正しいセルフケア
最初にあなたに約束して頂きたいことは、「必ず学んだ知識を行動に移す」ということです。
この記事に書いてある内容は私自身が自分の歯を守るために実践しているもので、過去の偉大な先輩方(歯科医師の方々)の経験が詰まったノウハウでもあります。
間違いなく効果が出るものしか紹介していませんが、一つだけ注意点があります。
それは、「へぇ〜、いいこと聞いたな。」で満足していては、あなたのお口の環境は何も変わらないということです。行動に移して初めてこの記事を読む意味があります。
「知っていることと出来ていることは全く違う」ということを肝に銘じて、一緒に学んでいきましょう。
これだけは押さえたい、虫歯予防のキモ
多くの人は子供の頃に、親や学校の先生から「歯磨きを頑張れば虫歯にはならない」という教育を受けています。が、この認識が虫歯の大元と言っても過言ではないのです。
常識ともされている虫歯の予防法(=歯磨き)では、残念ながら虫歯は減りません。なぜなら、根本的な原因を解決できないからです。そこで今回お伝えするのは歯科医学的な根拠に基づいた、確実に効果の出る方法です。
虫歯予防のキモを一言で言えば、シュガーコントロール。
砂糖(シュガー)の量を制限する(コントロール)するということです。簡単に言ってしまえば、お口の入る砂糖の量と回数を上手く管理するだけの話です。言葉だけではしっくりこないと思いますので、虫歯の原理を理解するための簡単な図を見てみましょう!
(出典:ココログ)
この図は甘いものがお口の中に入った時の現象をまとめたものです。縦軸は歯の表面のpH(ペーハー)という酸性度を表しています。
少し分かりづらいかも知れませんので、順に解説していきます。
緑で囲ったところは、甘いものがお口の中に入った直後を表しています。元々7付近だったpHの値が急激に下がっているのが分かるかと思います(pHが5.5を下回ると歯の表面は溶け始めます)。
これが示しているのは、「歯の表面が細菌の出した酸によって溶けている」ということです。あなたも知っているかも知れませんが、お口の中にいる細菌は砂糖などの糖をエサにして生きています。
そのエサがお口に入ると、一気に酸が作られ、歯の表面が溶けていくんです。お口の中には肛門の約10倍の数の細菌が常にいますし、無菌にすることは決して出来ません。つまり、甘いものを飲んだり食べたりする以上、歯が溶けるのは避けられない事実だということになります。
ここから分かるのは、「甘いものを食べた後にすぐ歯を磨いてもほとんど効果がない」ということ。なぜなら、甘いものを食べた直後には、すでに歯の表面は溶けてしまっているからです。歯磨きをしても歯の表面が元どおりになるわけではありません。
ただし、歯は溶けっぱなしではありません。甘いものがお口からなくなった後の反応をみてみましょう。
斜めのマルで囲った上の図を見てください。下がってしまったpHの値が元の7付近まで戻っていくのが分かるかと思います。
これは唾液の作用によるもので、「再石灰化(さいせっかいか)」と言います。先ほど甘いものが原因で歯が溶けてしまいましたが、唾液の力で溶けた歯の表面が時間をかけて元に戻っていくのです。
ただ、図をよく見ると歯が溶けるのは一瞬ですが、再石灰化には結構時間がかかっているのが分かるかと思います。これも虫歯を予防する上でとても重要なポイントになります。
「歯が溶けるのは甘いものがお口の中に入った直後。でも再石灰化には1時間くらいかかってしまう」
ということなのですが、これをあなたがすべき具体的なシュガーコントロールにまで落とし込むと、
「甘いものはダラダラ飲まない、食べない!」
「食事と食事の間はできる限り時間を空ける(最低1時間)」
ということになります。
お口の中に甘いものが長い時間存在すると、それだけ細菌が出す酸で歯の表面が溶けてしまうことになります。つまり、同じ量の甘いものを口に入れるにしても、「ダラダラ飲まない、食べない」という習慣をつけることで虫歯に発展してしまうリスクを抑えることができます。
そして、”甘いものがお口からなくなってから再石灰化が完了するまでは1時間かかる”という点を考えると、頻繁に甘いものをお口に入れるべきではありません。
再石灰化の途中で再び歯の表面が溶けてしまったら、「歯の溶けている量>再石灰化で元に戻った歯の量」という状態になるので、少しずつ虫歯が進んでしまいます。
つまり、お口に甘いものを入れる回数を少なくすることが虫歯予防にはとても効果的だということです。
ただ、「甘いものは絶対に飲んだり食べたりしてはいけない」と言っているわけではありません。お口に入る砂糖の量と回数さえしっかりとコントロール出来ていれば、我慢する必要はありませんから安心して下さい。
具体的に取り入れたい習慣
先ほどの虫歯予防の原則をより生活に取り入れやすいように具体的なお話もしたいと思います。
効果的な習慣を細かく挙げると、
- 食事は1日5食以内に抑える(おやつ含め)
- 普段の飲み物は、お茶か水にする
- 運動する際にスポーツドリンクを飲むのを控える
(水やお茶だけでも熱中症予防になる) - コーヒーをよく飲む人は、ノンシュガーにする
- タブレット(フリスク、ミンティアなど)をよく食べる人はキシリトールガムに替える
- 清涼飲料水(ペットボトルジュースなど)を飲むときは、すぐに飲み切る
- 菓子パンを食べるのは控える
(かなりの砂糖が入っているため) - アメは舐めないようにする
- 寝る前3時間は甘いものは口に入れないようにする
(就寝前〜就寝中は唾液が減るため再石灰化が起こりづらいため)
などになります。1日の飲食物を紙に書き出してみると、多くのものに砂糖が使われていることに気づくと思います。少しずつでいいので、砂糖が入っているものをノンシュガーに替えるなど、シュガーコントロールを進めていきましょう。
「甘いものはダラダラ飲まない、食べない!」
「食事と食事の間はできる限り時間を空ける(最低1時間)」
この2つを意識しておけば、自ずと先に挙げたような具体的な虫歯予防の習慣が見えてくるはずです。自分の歯を守るため、そして甘いものを食べる楽しみを一生続けるためにも、押さえるべきところはしっかりと押さえていきましょう。
プラスαの虫歯予防ノウハウ
「虫歯予防=シュガーコントロール」という大原則を押さえた上で、歯医者がオススメする習慣もお伝えしたいと思います。
具体的には、
- 水分をたくさん摂る
- 寝る前にフッ素を使用する
という2点です。
①水分をたくさん摂るというのは、唾液を出しやすくするためです。再石灰化以外にも殺菌作用があるなど、唾液の役割はとても重要です。たくさん出るに越したことはないのですが、カラダの水分が不足していると分泌が抑えられてしまいます。
そこで、虫歯予防の効果を高めるためにも日頃から水分を意識的に摂っておく必要があります。
具体的には1日2リットルを目安に、水やお茶などのノンシュガーの飲み物を飲むのがベストです。2リットルと言うと多く感じますが、こまめにコップ1杯のお水を飲むようにすると1日が終わる頃には比較的簡単にノルマを達成できるはずです。
全身の健康のためにも良い高い習慣なので、是非、取り入れてみて下さい。
②寝る前にフッ素を使用するというのは、歯磨きを終えて寝る直前にフッ素のジェルを歯に塗るという習慣です。“フッ素”というのは、歯の表面に作用して虫歯に強くしてくれる物質です。
ハイドロキシアパタイトと呼ばれる歯の組織がフルオロアパタイトと呼ばれる組織に変わることで得られる効果です。
薬局などで売られている歯磨き粉にもフッ素が含まれていますが、歯磨きをした後にゆすいでしまうので十分に効果が発揮されません。
そこで私がオススメするのは、発泡剤などを含んでいないフッ素のみのジェルです。
“洗い流さないリンス”のように、歯の表面に塗ったらそのまま寝てもらえる歯磨き粉だと考えて下さい。毎日使うことでより効果が発揮されるので、是非、寝る前の習慣として始めてみて下さい。私が実際に使っているものは下記の記事でチェックできます。
使う量の目安としては、歯ブラシの毛の半分くらいで十分です。あまりたくさん塗り過ぎてしまうと、唾液がたくさん出て流れてしまうので注意が必要です。
以上2つがシュガーコントロールと併せて取り入れたいオススメ習慣です。
ただ注意してもらいたいのは、シュガーコントロールが出来ていない状態で水を飲もうが、フッ素を使おうが、大した効果はないということです。
飽くまで虫歯予防の要(かなめ)はシュガーコントロールです。お金もかけずに出来ますし、虫歯の原因に対してダイレクトに効果がある方法なので、一番大切なポイントとして常に意識しておいて下さい。
これだけは押さえたい、歯周病予防のキモ
では次に、歯周病予防のキモについてお話していきたいと思います。歯周病に関しても、「歳をとると歯茎が下がる」、「タバコを吸うと歯周病になる」、「歯周病予防の歯磨き粉が効く」などのように誤った情報が世間には溢(あふ)れています。
是非、この記事をきっかけに歯周病に関しても正しい知識を手に入れて、効率よく予防していきましょう。
この病気を予防するために必要なことはたった一つです。それはプラークコントロール。簡単に言えば、歯ブラシを使った“正しい歯磨き”のことです。
歯の表面に付いたプラークと呼ばれる細菌の塊を取り除くために行うのが、歯磨きの本当の役割です。
プラークと言われても具体的にイメージしづらいと思うのですが、小学生くらいの頃に歯の表面を赤く染めた経験を思い出して下さい。
このように歯が赤く染まった経験はありませんか?この色が付いた部分がプラークです。染める前の写真も見てみましょう。
これが赤い液で染める前の歯です。先の写真とよく見比べてみると、「歯と歯茎の境目」と「歯と歯の間」に白っぽい物質が付いているのが分かるかと思います。
プラークは基本的に白〜黄色をしているので、歯に付いていてもほとんどの人は気づきません。そのため、「知らない間に歯周病が進行していた」という事態に陥ることが多いのです。
復習になりますが、歯周病は細菌が歯の表面に付き、プラーク(細菌の塊)を形作るところから始まります。そして、プラーク中の細菌が出す毒素によって、歯茎、そして周囲の組織へ炎症が広がっていく病気です。
つまり、歯周病にならないための最大のポイントは、普段からプラークを取り除けるような”正しい歯磨き”を実践することです。プラークコントロールさえ出来れば、歯周病のリスクはほとんどなくなります。
しかし、プラークコントロールが出来ていない状態では、どんな治療を受けようが治らないのも歯周病という病気です。
「歯周病の原因=プラーク」を取り除くのは他でもない、あなた自身の歯磨きです。
いくら私たち歯医者や衛生士さんが丁寧にクリーニングを行っても、プラークは24時間もすれば歯の表面に蓄積してしまうので、プロフェッショナルケアの効果は驚くほど小さいのです。
歯医者に頼ることなく自分で正しいケアを身につけ、習慣として実践し続けることがあなたの歯を守ることに繋がります。
正しい歯磨きの3条件
では、ここからは具体的に“正しい歯磨き”について学んでいきましょう。ポイントは3つです。
- プラークがどこに付いているのかを知る
- 磨く歯をよく見る
- 1日1回だけ質の高い歯磨きをする
これらを意識することであなたの歯磨きは確実にレベルアップします。どれもシンプルなものですが、詳しく見ていきましょう。
①プラークはどこに付いているのか?
先ず、「プラークがどこに付いているのか」に関しては、先ほどもご紹介しましたが、「歯と歯茎の境目」と「歯と歯の間」でした。「歯茎にプラークは付いていない」ということも併せて覚えておきたいポイントです。
あくまでプラークが付くのは、歯や被せ物、インプラント、入れ歯などの硬い組織だけです。
歯茎を歯ブラシで擦(こす)っても、傷になってしまうだけで何の効果もありません。
「血行を促進して歯周病に負けない歯茎へ」などのキャッチフレーズを見かけることもありますが、プラークが歯の表面に残っている限り炎症は治りません。
「プラークが付いているのは歯」
これは何度も意識してもらえればと思います。
②磨く歯をよく見るってどういうこと?
「磨く歯をよく見る」というのも、とても重要です。
普段、あなたが部屋の掃除をするときはホコリが溜まっている場所をよく見て、掃除機やモップを当てていると思います。ごくごく当たり前な話だと思いますが、これを歯磨きで実践できている人は驚くほど少ないのです。
- 口をつむったまま歯磨きをする
- 歯磨き粉をつけて歯磨きをする
- 何か他のことをやるついでに歯磨きをする
これらが典型的な例です。基本的に「手鏡で磨く歯1本1本をよく見ながら」でなければ、正しい歯磨きは出来ません。歯は立体なので、歯に歯ブラシが当たる感覚だけを頼りに平面的に動かしていても、磨き残しになってしまうからです。
お口の中は小さな家具(歯)が立ち並ぶミニチュアハウスのようなもの。家具一つ一つをよく見ながら掃除していきましょう。
③歯磨きは1日1回だけでいい?
実は、“プラークコントロールに繋がる、正しい歯磨き”は1日1回で十分です。
多くの人が「1日3回歯磨きをした方がいい」と記憶しているのは、小さい頃に親や先生から言われたからであって、医学的に正しいわけではないのが実際のところです。
食後の歯磨きは、「プラークコントロール」ではなく、「食べカス取り」に近いものがあります。食べカスは基本的に食べ物なので悪さはしませんし、キレイに取り除いても歯周病予防にも、虫歯予防にも繋がりません。
一方でプラークは、お口の中の細菌が約24時間かけて歯の表面に蓄積した塊です(部屋に溜まるホコリのようなイメージ)。食事とは関係ありません。1日1回、全ての歯のプラークを取り除ければ、それで十分です。
プラークと食べカスをはっきり区別することで、1日3回歯磨きをする必要がないことを理解して頂けるのではないかと思います。もちろん、食後に食べカスを取り除くのはエチケットという面でも大切なので続けてもらいたいと思いますが、”歯周病予防とは関係ない”と覚えておいて下さい。
また歯磨きは回数ではなく、1回の質が重要です。ただ何となく歯を磨いているだけでは、1日100回歯磨きをしたとしてもプラークは取り除けないので、プラークコントロールにはなりません。
そして、“「正しい歯磨き」を実践しようとすると、時間も集中力も必要なので、1日3回もやってられない”というのが実際のところでもあります。「どのレベルの精度で磨かなければいけないのか」に関しては、これから具体的にお話したいと思います。
プロが教える、具体的な歯磨きの仕方
ではここから具体的に、「歯ブラシをどのように歯に当てればいいのか?」を詳しくお話したいと思います。
先ず押さえておきたい大原則は、「磨こうとする歯の面に対して、歯ブラシの毛先を垂直に当てる」ということ。
この原則は常に意識して下さい。歯ブラシの”毛先”が当たらなければ、プラークは効率よく落ちません。とても単純なことですが、お口の中という小さなスペースで実践するのはなかなか難しいので、”考えながら”歯磨きをしていきましょう。
次にお伝えしたいポイントは3つ。
- 歯ブラシを動かす幅
- 歯ブラシを当てる角度
- 歯ブラシを当てる力加減
幅(Width)、角度(Angle)、力加減(Pressure)の頭文字を取って、WAP。この3つを意識して行う歯磨きの仕方をWAPメソッドと言います(前岡考案)。それぞれ詳しく見てみましょう。
歯ブラシを動かす幅
ガシガシと歯ブラシを広い範囲で動かす方もいますが、基本的に歯は1本ずつ、手鏡でよく見ながら磨き進めていきます。
具体的には5mm〜1cmほどの幅で、常に歯ブラシの毛先をプラークが付いている箇所に当てたまま細かく動かすことで効率よくプラークを除去出来ます。
歯ブラシを持つ手の力の抜いて、軽く動かしていくのがポイントになります。
一度に何本も歯を磨こうとせずに、1本づつ大切に磨く意識で取り組んでみて下さい。
歯ブラシを当てる角度
歯ブラシを歯に当てる角度はとても大切です。
この角度が間違っていると何度同じところを擦(こす)っても毛先が浮いてしまい、「磨けた気」になるだけで終わってしまいます。
先ほどのお話した大原則を具体的なイラストで確認してみましょう。
先ずは多くの人がやってしまう、誤った当て方からチェックしましょう。テレビCMで見たり、衛生士さんに教えてもらう機会の多いものとして、
このイラストのような磨き方があります(イラストは私の直筆なのでクオリティはご了承下さい)。
専門的には「バス法」と呼ばれるもので、歯と歯茎の境目に対して斜め上(45度くらい)から歯ブラシを当てる方法です。赤の斜線で示している部分がプラークです。
イラストを見れば明らかですが、歯の表面に対して歯ブラシの毛先が垂直には当たっていません。
三角形に空間が空いてしまい、プラークを効率よく取り除けないのです。このまま歯に対して強く押し当てると、
このようにブラシは歯茎に向かって曲がってしまい、結果的に「擦っているのは歯茎だけ」という状態になってしまいます。歯の表面に対しては、歯ブラシの腹が当たっているので、粘着性のあるプラークはなかなか落ちてくれません。
「歯周ポケットの中のプラークを取り除く」などとテレビCMで表現されていることもありますが、歯周ポケットの中に歯ブラシの毛先が入ったとしてもせいぜい1mm程度。ポケットの歯の表面に対しては結局ブラシの腹が当たることになるので、思ったほどの効果は得られません。むしろ歯茎を擦ることで傷ができてしまい、痛みが出ることの方が多いのです。
余談ではありますが、“歯周ポケット”というのは、既に歯周病になってしまった歯茎にしかできないものです。予防という観点では無視してもらって構いません。歯周ポケットの中まで歯ブラシでプラークコントロールするのは難しいので、歯茎よりも上に付いているプラークにだけ集中してください。それだけで歯周病は劇的に改善します。
では次にWAPメソッドで提唱している当て方を確認しましょう。
このように歯の立ち上がりの角度に合わせて、斜め下から当てるのが一番効率よくプラークを取り除くことが出来ます。手鏡で自分の歯の形をよく見ながら、当ててみて下さい。
では次に、歯を上から見た際の当て方も確認しましょう。歯は複雑な形をした立体なので、ただ歯の並びに沿わせて歯ブラシを動かしても磨き残しになってしまいます。実際の歯磨きのイメージを固めるためにもイラストで確認しましょう。
最初に”歯の形を単純な形に落とし込む”というステップです。下の図を参考にしてみて下さい。
このように歯の形を8面に単純化します。このうちの6面を歯ブラシの「つま先」、「真ん中」、「かかと」を使って磨いていきます。実際の写真で確認すると、
緑色の印が付いている歯を磨いています
このように6方向から歯ブラシの毛先を当ててあげると、磨き残しはなくなります。写真を参考にしながら手鏡を見ながら磨いてみて下さい。
歯ブラシを当てる力加減
いよいよWAPメソッドの最後です。
歯ブラシを歯に当てる力加減はとても重要で、ここを改善するだけであなたの歯磨きは劇的に良くなります。
先ず、具体的な力加減を言葉で説明していくと、「歯ブラシの毛先が開かないくらいの力」です。
多くの人は一生懸命磨こうとすればするほど力が入ってしまいますが、正しい歯磨きのキモは”限りなく力を抜くこと”です。イラストでもその意味を確認してみましょう。
力を入れて歯ブラシを当ててしまうと、
(イラストのチープさはご了承ください)
このように毛先が開いてしまい、結果的に一番磨きたいところに毛先が当たらない状態になってしまいます。ブラシを使った掃除で効率よく汚れを落とそうと思えば、
このように毛先が磨こうとする場所に軽く接しているくらいの力加減がベストです。
言葉だけで具体的な力を理解するのは難しいので、簡単に出来る「正しい力加減を理解するエクササイズ」もご紹介したいと思います。使用するのは、
歯ブラシと割り箸です。割り箸の細さは下の前歯と同じくらいの太さなので、力加減を練習するにはもってこいです。先ずは普段歯を磨いている力加減で割り箸に歯ブラシを押し当ててみましょう。多くの場合、
この写真のように歯ブラシの毛先が開いてしまうかと思います。この状態から歯ブラシを押し当てる力を少しずつ抜いていきましょう。すると最終的に、
このような状態になるはずです。歯ブラシの毛先が最も効率よく割り箸に触れているのが分かるかと思います。
この力加減を体感すると、「こんな弱い力で大丈夫なのかな!?」と心配になるかも知れませんが、先ほどのイラストのイメージを思い出して下さい。
力を入れれば入れるほど、ブラシの命である毛先が磨きたい場所に当たらなくなります。
「軽く歯の表面に触れているくらいの力」が正しい歯磨きの力加減です。
おまけ:歯磨きの時間について
よく私が受ける質問に「どのくらいの時間磨けばいいですか?」というものがあります。
答えから先にお伝えすると、「すべての歯の”歯と歯茎の境目”と”歯と歯の間”を磨き終わるまでにかかる時間が、歯を磨く時間」です。
時間を決めて磨いても、磨き残してしまった箇所は歯周病のリスクを常に抱えることになるからです。
先ほどまでお話した、正しい歯磨きの仕方(WAPメソッド)を実践しようとすると、慣れないうちはとても時間がかかります。
1本1本の歯の形、生えている場所、生えている角度などを意識しながら、それぞれの歯を丁寧に磨く正しい歯磨きへ習慣を変えていくのは、歩き方や話し方を根本的に変えるくらいのインパクトがあります。
人によっては初めて正しい歯磨きを実践すると、お口の中全体を磨くまでに1時間ほどかかってしまうこともあります。
しかし、日々意識して繰り返していくうちに必ず上手くなりますし、磨き終わるまでの時間も短くなります。
そして、歯を失わない(歯周病にならない)ための習慣が身につけば、一生歯医者の治療を受ける必要がなくなるのです。あなたも物心ついた頃から「歯磨き」は当たり前の習慣として行なっているはずです。
毎日行う習慣を正しいものに変えることができた先には、”治療”から解放された人生が待っています。「正しい歯磨き」を実践し始めた頃は、”上の前歯だけ”、”右下の奥歯だけ”などブロックを分けて歯磨きを行なっても構いません。
少しずつでも、毎日続けることが最大の秘訣です。最終的には10分ほどでお口の中全体をキレイに磨けるようになるはずです。
是非、諦めずに続けてみて下さい。
おまけ(その2):薬局で買えるオススメの歯ブラシ
もう一つおまけとして、「薬局でも買えるオススメの歯ブラシ」もご紹介したいと思います。
正しい歯磨きを実践するために必要なのは、シンプルな形の歯ブラシです。3列植毛で、ヘッドが小さいもの、毛の硬さは「ふつう」がベストです。複雑な形の歯に対して、複雑な形の歯ブラシを上手く当てるのはとても難しいことなので、”シンプル・イズ・ベスト”で選んで下さい。
多くのメーカーが、「超極細毛」、「ワイドヘッド」、「山切りカット」などの歯ブラシを出していますが、ほとんどの場合、歯周病治療の専門家がオススメする歯ブラシとは異なります。
その理由は単純で、歯医者が推奨するような歯ブラシはシンプル過ぎて売れないからです。「様々な名前や機能をつけた方がよく磨けるような気がして、売れやすい」のが実際のところだと思います。
- 3列植毛、毛の硬さと毛の形は「ふつう」の歯ブラシ
- ワイド植毛、毛の硬さは「ウルトラソフト」、毛の形は山切りカットの歯ブラシ
2つの歯ブラシを比べた時に、後者を手に取る方が多いのが歯ブラシ市場です。本来であれば、シンプルな形の歯ブラシしか必要ありませんが、メーカーごとに代わり映えしなければお客さんから選んでもらえませんから、年々新たな歯ブラシを投入しているのです。
名前やキャッチコピーに左右されずに、プラークコントロールしやすい歯ブラシを選びたいところです。
実際に私が薬局の歯ブラシコーナーを吟味(ぎんみ)した中でオススメなものは、
です。この歯ブラシを基準にしてもらえれば問題ないかと思います。
まとめ
今回は、前回の総論となる記事を踏まえた上で具体的なノウハウを詳しくお話させて頂きました。
かなりのボリュームになってしまったので、一度読んだだけで全ての内容を理解して実践することは難しいと思います。少しずつでもいいので読み返してもらいながら、あなた自身の歯を守るための正しい習慣をスタートしてもらえればと思います。
歯は病気になると決して治りません。そして、失ってしまった歯は二度と戻ってきません。歯がなくなることは、カラダの一部を失うことと一緒。「病気になったら治せばいい」という考え方では、取り返しがつかなくなってしまうということを知って頂ければ、とても嬉しいです。
私たち歯医者は、「あなたのお口の健康を通し、全身の健康に寄与する」ことを使命としています。歯科治療を通して、あなたが好きなものを食べ、気の許せる仲間とおしゃべりし、自分らしい笑顔で過ごす人生を一緒に築いていきたいと思っています。
しかしながら、本当の意味であなたの歯を守ることが出来るのは”あなただけ”です。お口は、「習慣」や「生活環境」の影響を色濃く受ける器官。
いくら私たちが死力を尽くしても、あなた自身が「大切にしたい」という想いを抱き、行動を変えなければ、決して守ることは出来ません。
“歯を守るための正しい知識を手に入れて、毎日の習慣を少しだけ変えていく”
これが歯ブラシ1本で一生歯医者の治療から解放されるための最大の秘訣です。一緒に少しずつ歩き出していきましょう!
行き詰まった時には、私が運営しているメディアサイト【デンタルハッカー】と無料メルマガも参考にしてみて下さい。きっとあなたの力になれるはずです。
この記事を書いた先生の情報
前岡 遼馬(まえおか りょうま)。北海道大学卒。生まれも育ちも愛知県一宮市の歯科医師。
歯周病治療をベースに、一本の歯を残すことにこだわった臨床を行っている。モットーは「治療を受けないのが最高の治療」。すべての患者さんに対し、「自分の歯を自分の手で守る大切さ」を伝えながら、歯ブラシを片手に日々奮闘している。
前岡歯科医院
所在地 | 愛知県一宮市向山南1-6-1 |
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電話番号 | 0586-72-3122 |
診療日 | 月・火・水・金・土 9:30〜12:30 14:00〜17:30 |
休診日 | 木・日・祝日 |
ホームページ | http://maeoka.info/ |
前岡先生の歯科情報サイト【デンタルハッカー】
URL | http://maeoka.net/ |
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